整形外科クリニックは、患者さんに対応できる時間が短く、1日に多くの疾患に対しリハビリテーションを行うため、病院に比べると難易度が高く感じる方が多いです。
「整形外科クリニックに勤めたいけど、病院で経験を積んでからにしようか悩んでいる。」
「スポーツ疾患を見たいけど、自分にはまだ早いかな?」
このように感じて、なかなか整形外科クリニックに就職を決められない人もいるでしょう。
この記事では、実際に整形外科クリニックに5年間勤め、主任業務を行なっていた私の意見を踏まえて紹介していきます。
整形外科クリニックに就職・転職を考えている新人理学療法士の方が気になる年収や仕事内容についてわかりやすく解説します。
失敗しない整形外科クリニックの選び方も紹介するので、皆様のお力になれれば幸いです。
「タロスケ」
・理学療法士(9年目)/ブログ歴4年目
・整形外科病院に就職し、急性期、回復期、慢性期を経験。
・4年目で整形外科クリニックに就職し、主任業務を担う。
整形外科クリニックの基本情報
整形外科クリニックの特徴
整形外科クリニックは大きく分けて、「有床・無床」に分けられます。
病床数が19床以下の医療機関をクリニックと分類されるため、規模の大きい病院と比較すると小規模の医療機関が多いです。
整形外科に関わる医療機関ですが、専門性は多岐にわたります。
リウマチや退行変性疾患に特化したクリニックや、スポーツ専門のクリニックなど、患者さんのニーズに合わせたクリニックがあります。
病院との大きな違いは、治療内容にあります。
病院の主な役割は、手術を行いリハビリをして退院までのサポートを行います。
それに対し、クリニックは大掛かりな手術を行わず、外来診療のみを行うことが多いです。(*1)
そのため、理学療法士の業務内容も変わってきます。
術後の管理や早期離床、ADL向上を目指す病院と異なり、痛みの訴えなどの機能障害がある方に対し、物理療法や運動療法を行い機能改善を目指すことを目的とします。(*2)
病院とクリニックは患者対応できる時間も変わってきます。
病院は1日最大6単位まで介入できるのに対し、整形外科クリニックでは1〜2単位しか関わらない場合が多いです。
会員割合
日本理学療法士協会の統計データ(2023年3月)によると、協会に登録している会員のうちクリニックに所属しているのは全体の17%程度であり、急性期や回復期といった病院施設と比較すると少ないです。
クリニックに勤めている会員の中でも、有床クリニックに勤めているのは2934人。
無床クリニックに勤めているのは9494人と、無床クリニックに勤めている理学療法士が多いことがわかります。
対象疾患
整形外科クリニックは主に痛みを抱えた患者さんが来院され、医師の指示のもとリハビリテーションを行います。
その部位は幅広く、首からつま先まで対象部位になります。
特に多い疾患としては、腰部疾患や肩関節疾患、退行変性疾患に関わることが多いです。
そのほかにも、スポーツ疾患や事故による外傷、手術後の方に対応することもあります。
運動器リハビリテーション料の対象となる患者は、特掲診療料の施設基準等別表第九の 六に掲げる患者であって、以下のいずれかに該当するものをいい、医師が個別に運動器リ ハビリテーションが必要であると認めるものである。
急性発症した運動器疾患又はその手術後の患者とは、上・下肢の複合損傷(骨、筋・腱・靭帯、神経、血管のうち3種類以上の複合損傷)、脊椎損傷による四肢麻痺(1肢 以上)、体幹・上・下肢の外傷・骨折、切断・離断(義肢)、運動器の悪性腫瘍等のも のをいう。
慢性の運動器疾患により、一定程度以上の運動機能の低下及び日常生活能力の低下を 来している患者とは、関節の変性疾患、関節の炎症性疾患、熱傷瘢痕による関節拘縮、 運動器不安定症等のものをいう。
厚生労働省
勤務形態
整形外科クリニックの勤務形態について紹介します。
整形外科クリニックはカレンダー通りの休みであることが多く、日曜日や祝日に休める分、家族との時間や自分の時間を確保しやすいです。
勤務時間は朝9〜10時から診療開始し、18時〜19時に診療が終わるところが多いです。
一例として、私の勤務形態を紹介します。
「平日」
8時出社
8:30朝礼
9:00午前の診療開始
13:00午前の部終了
15:00午後の診療開始
19:00午後の部終了
19:30退勤
※土曜日は勤務時間が2時間早く終わります。
主な業務内容は、患者対応から書類業務、カンファレンスなどのミーティングがあります。
勤務時間の大半を患者対応が占めるため、カンファレンスやカルテ記入、ミーティングなどは診療後に行うことが多いです。
早く帰れる時は19:30ごろには退勤できますが、ミーティングやカルテの量によっては20時を回ることもありました。
整形外科クリニックに必要な3つの能力
コミュニケーションスキル
整形外科クリニックには小児から高齢者まで幅広い年齢層の方を対応します。
実際に私が対応したことのある年齢層は、一番年齢が若い方で2歳、ご高齢の方だと90代の方を対応させていただきました。
対応する患者さん別に話し方や対応方法を柔軟に変えることができる能力が非常に重要です。
コミュニケーションスキルが高い人や接遇などが身についている方は向いていると言えるでしょう。
コミュニケーションスキルを伸ばすために、マーケティングの知識を学ぶこともあります。
患者さんに信頼をしてもらうために最も重要なスキルです。
短時間で結果を出す臨床スキル
整形外科クリニックは20分で対応するところが多いです。
予約制となっているため、一人の患者さんの対応が遅れてしまうと、次の方を待たせてしまい信用に関わります。
時間を守るだけでなく、20分の間で評価、治療、効果判定を行い結果を出さなければいけません。
短時間で結果を出すには、仮説立案を行うリーズニング能力、評価や治療技術などが求められます。
施設によっては、そのクリニック内で勉強会を行い、臨床力を伸ばすような指導を行なっています。
少しずつ能力を磨いていきましょう。
体力
整形外科クリニックは勤務時間が長く、対応する患者数も多いです。
実際に私が勤めている整形外科クリニックでは、1日に平均18〜20人を対応し、多い時では20人以上対応することもあります。
朝9時から夜の19時まで患者対応とカルテなどの書類作成をこなさなくてはいけないので、体力も欠かせない能力です。
整形外科クリニックの年収
平均年収は300万〜400万
整形外科クリニックの平均年収は300万〜400万(当サイト調べ)と病院のような医療施設と比べて大きな差はあいません。
クリニックは施設の性質上、理学療法士の取得単位数が売上に直結します。
そのため、施設内での重要性は高いため、昇給率が高いなど優遇されることもあります。
年収の計算方法
理学療法士は1ヶ月に対応できる単位数が決まっており、1週間に108単位まで実施することができます。
当該リハビリテーションの実施単位数は、従事者1人につき1日18単位を標準と
し、週108単位までとする。ただし、1日24単位を上限とする。
厚生労働省
【基本情報】
・1単位=10円
・運動器Ⅰ:1単位 185点=1850円
・リハビリテーション総合実施計画書:300点=3000円
実際に理学療法士が、規定内で働いた場合の年収を計算してみます。
【理学療法士が上限いっぱいの108単位を4週間取り続けた場合…】
185点×108単位=19980点
19980点×4週間≒80000点
「約80万円の売上」
【108人から計画書を取得した場合】
108単位×300点=32400点
「月の売り上げ:324000円」
上記の条件から計算すると、約112万円が一人の理学療法士の売り上げとなる。(*4)
そこから人件費となる30%を計算するとだいたい33万円となる。
つまり、年収は33万円×12ヶ月は396万円となるので、年収400万円が整形外科クリニックとして一人の理学療法士を雇う際の給料と考えられます。
実際は、福利厚生などによって変わってくるので、あくまで例として捉えてください。
実際に例を踏まえて説明
20代後半の理学療法士の給料を一例に上げてみましょう。
基本給 | 190,000円 |
総支給額 | 350,000円 |
年収 | 420,000円 |
給料に見合った働きができているかを計算してみます。
・「1日平均単位」20単位×「出勤日数」23日=「取得単位数」460単位
・「取得単位数」460単位×「運動器Ⅰ算定」185点=85100点
・「売り上げ(算定単位のみ)」:851,000円
この月の売り上げは約85万円です。
支給額は35万円なので、売上に対して約40%頂いていることになります。
計画書などの加算を計算していないことや今回は控除などを計算していないため、粗い計算になりますが、ざっくりと売り上げ分は頂いていることになります。
逆を言えば、単位数が18単位を切ってしまうと、給料分働いてないことになります。
そうなった場合、昇給やボーナスに影響してしまう可能性があります。
全てのクリニックがそうではありませんが、取得単位数が翌年の昇給率に影響したと言う話を聞いたことがあります。
そのプレッシャーを感じながら働くのもクリニックの特徴と言えるでしょう。
整形外科クリニックの注意点
実力主義の現場
整形外科クリニックは、良くも悪くも実力主義の現場であることが多いです。
短時間で治療結果を出し、患者さんが効果を実感してくれることに重きを置いています。
逆を言えば、結果を出せず患者さんに満足してもらえないと、来なくなってしまうという事実があります。
前述したように、整形外科における理学療法士は重要なポジションです。
理学療法士の取得単位が直接病院の売上に関わるので、単位数などを管理される施設が多いです。
実際に私が勤務していたクリニックでは、取得単位数、売上、単位消化率(1週間108単位)、キャンセル数、ドロップアウト率(未来院となった患者数)を個人月報として院長や総務に報告をしていました。
自分の業績を数字で評価されることがあるため、どうしても売上にこだわらなければいけないマインドが生まれてしまいます。
社会人として当たり前の考え方ではありますが、医療従事者としては受け入れにくく、ストレスに感じてしまうでしょう。
整形外科クリニックに向いている人
とにかくガツガツ臨床をやりたい理学療法士は整形外科クリニックが向いていると言えます。
「自分の業績が数字になることをモチベーションにすることができる。」
「幅広い疾患に対する知識を蓄えることができ、貪欲に治療技術を向上できる。」
こんな人は整形外科クリニックへの就職をオススメします。
整形外科クリニックに興味があるけど、他にもいろいろ学びたい人は、外来がある病院もオススメです。
整形外科クリニックと異なり、急性期や回復期などの病期別に関わることができ、整形外科以外の疾患にも関わることができます。
失敗しないための就職・転職活動
就職・転職するときのポイント2点
休日の数に注意
クリニックは日曜・祝日が休みのことが多く家族との時間や自分の時間を確保しやすいです。
夏季休暇や冬季休暇に関しては通常営業をする施設があるので、注意が必要です。
休みが4週8休ではない場合もあります。
週休2日制ではない場合や、平日半日出勤が2回と日曜日休みで週休2日となっているクリニックもあるので必ず確認しましょう。
・年休が120日以上か確認
・4週8休か確認
自己研鑽に対する施設の援助
整形外科クリニックで働く上で、自己研鑽は欠かせません。
勉強会や学会への参加に対して、施設がどこまで援助してくれるかも重要なポイントです。
勉強会や学会は最低でも1万円の費用がかかるところが多いです。
教科書などの教材も決して安くないため、全てを自分の給料から出そうとすると結構な負担になってしまいます。
就職先が自己研鑽に対してどこまで援助してくれるかを必ず確認
さらに失敗しないためのコツ
2つのポイントを知った上で、さらに失敗しないために転職サイトの活用をオススメします。
転職サイトには、多くの整形外科クリニックの求人情報が揃っており、理学療法士の転職に特化したアドバイザーがサポートしてくれます。
年収や休日数、自己研鑽への援助の有無など自分が求める条件をアドバイザーに伝えるだけで、自分に合った求人情報を教えてくれます。
登録自体は無料であり、退会も簡単にできるので、気になる方は登録をオススメします。
個人的には、「PTOT人材バンク」と「PTOTSTワーカー」をオススメします。
どちらのサイトも、求人掲載数がトップクラスであり、整形外科クリニックの求人も多数掲載されています。
今すぐ転職をしなくても、とりあえず情報収集目的で登録をしてみても良いと思います。
最後に
病院で経験を積んでからの転職ってどうなの?
結論から言うと「病院で経験を積んでからの転職はあり」です。
私は3年間の病院勤務を経て、目標だった整形外科クリニックに転職しました。
最初の方は、20分で患者対応をするスピード感について行くことができず、患者さんに対し十分な治療効果を出すことができませんでした。
1年目から整形外科クリニックに勤めていた後輩は、患者さんの対応がうまく、信頼を勝ち取っていました。
その現実に対して、転職を失敗したと正直思ってしまいました。
しかし、病院勤務をして良かった点が多数あります。
急性期に勤めていた経験から、術後の管理や炎症期に対する知識があったため、手術をされてから当院へリハビリ目的で来院された患者様に対し、役に立つことができました。
回復期に配属された時に、家屋調査を行なった経験から在宅での環境設定に対しアドバイスをすることができました。
病院でじっくりと患者さんを対応できていたため、評価の精度や気付く力を伸ばすことができました。
また、中枢系や呼吸器、循環器などの既往がある患者さんに対しても多角的な視点で介入を行うことができました。
以上のことから、新人の頃に大きな病院で経験を積んでから、整形外科クリニックに転職する道もありだと思います。
もちろん、早い段階でクリニックの経験を積めるのも大きなアドバンテージになるので、整形外科で働くと言う強い志がある人は、新人の頃から整形外科クリニックに飛び込んでも良いと思います。
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