サポーターで筋力が落ちる?──その誤解と、本当の役割を理学療法士が解説します

【結論:市販サポーターでは筋力は落ちません】

「サポーターをつけると筋力が落ちるから、あまり使わない方がいい」

そんなふうに聞いたことがある方もいるかもしれません。

でも、結論からお伝えします。

市販されている膝サポーター程度の固定力では、筋力が落ちることはありません。むしろ、正しく使えば動きやすくなり、筋力低下を防ぐ効果すらあるのです。

今回は、その理由と根拠をわかりやすくお伝えしていきます。

【よくある誤解:サポーター=筋力をサボらせる?】

たしかに、学術論文の中には「サポーターや装具で筋力が低下する」とする報告もあります。

たとえば、ACL損傷後の患者に支柱付きの装具(ブレース)をつけた研究では、

大腿四頭筋の活動が抑制される傾向が確認されています(Swanik et al., 2004)。

しかし、ここで重要なのは「使われていた装具の種類」です。

この研究で使われていたのは、がっちりと膝を支える支柱付きの医療用装具であり、

ドラッグストアなどで売られているような「柔らかいサポーター」とは別物です。

同様に、変形性膝関節症(膝OA)の患者に使われた外反抑制型ブレース(Kuster et al., 1997)も、

物理的に関節の動きを強く制限するタイプでした。

【サポーターには“隠れたメリット”もある】

ここからが本題です。

市販のサポーターは「関節をガチガチに固定するもの」ではなく、皮膚に密着するだけのソフトな支持具です。

この“触れている”こと自体が、実は私たちの身体にとって大きな意味を持ちます。

● 1. 皮膚の刺激が“身体感覚”を呼び覚ます

皮膚には、関節の位置や動きを感じ取るための「感覚センサー(機械受容器)」が存在しています。

サポーターが皮膚に軽く触れることで、

• 動いていることを脳がより明確に認識できる

• 関節の“ぐらつき感”や不安が軽減される

• 動作がスムーズになる

このように、皮膚刺激によって運動制御が整うことが研究でも示されています(Callaghan et al., 2002)。

● 2. 安心感が“行動”を引き出す

膝の痛みや不安があると、人は動かなくなりがちです。

でも、サポーターをつけることで

「これがあるから大丈夫」

「ちょっと歩いてみようかな」

という心理的な安心感が生まれます。

これが、行動量の増加や筋力維持につながる大切なきっかけになるのです。

● 3. 痛みが軽くなる“神経的仕組み”も

皮膚に触れる刺激は、「痛みの信号」を脳に届きにくくすることがあります。

これは「ゲートコントロール理論(Melzack & Wall, 1965)」と呼ばれるもので、

触覚が活発に働くことで、痛みの通り道(C線維)を一時的に遮断してくれるというものです。

【正しい使い方:サポーターに“依存しない”工夫を】

サポーターはあくまで「補助的なアイテム」です。

以下のような使い方を意識すると、筋力を落とすどころか再び動ける身体づくりのパートナーになってくれます。

■ 避けたい使い方(NG例)

• 痛みがなくなっても、ずっと着けている

• 何となく不安だから、運動中も運動後も着けっぱなし

• サポーターだけに頼って、運動をしない

■ 望ましい使い方(OK例)

• 痛みや不安感がある時だけ、運動時に限定して使う

• サポーターをつけて「怖くない動作」を思い出す

• 運動療法や筋トレとセットで使う

【まとめ:サポーターは「使いこなす」もの】

「サポーター=筋力が落ちる」と一言で語るのは、誤解を生む可能性があります。

• 強固な医療用装具とは違い、市販のサポーターは筋力低下を起こすほどの固定力がない

• それどころか、皮膚刺激や安心感によって動作を補助し、筋出力やバランスの改善にもつながる

• 正しく使えば、“動けない”から“動ける”への一歩をサポートしてくれる

「サポーターに頼る」のではなく、「サポーターを活かす」

その視点が、あなたの身体にとって最も価値ある使い方です。

【引用文献】

• Swanik et al., 2004. “Neuromuscular Dynamic Restraint in ACL Injured Females.”

• Kuster et al., 1997. “Knee joint load and muscle activity during stair climbing in patients with osteoarthritis.”

• Callaghan et al., 2002. “The role of knee bracing in patellofemoral pain syndrome: A review.”

• Melzack R, Wall PD. (1965). “Pain mechanisms: A new theory.” Science

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