【スクワットは本当にいいの?】膝が痛い人でも安心してできる“正しい筋トレ”とは― 理学療法士が最新研究をもとに解説 ―

【はじめに】この記事についてのご案内

本記事は、理学療法士の視点から、運動やリハビリに関する情報をわかりやすくお伝えするものです。

紹介している運動は、あくまで一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や疾患に対する効果・改善を保証するものではありません。

体調や症状には個人差がありますので、運動を始める前には、専門の医師にご相談ください。

スクワットは「下半身の要」を鍛える基本の運動

「スクワットがいいって聞くけど、膝が痛くてできない…」

そんな不安を抱えていませんか?

実はスクワットは、次のような日常生活に欠かせない筋肉を鍛えられる、非常に優れた運動です。

鍛えられる主な筋肉:

  • 太もも前面(大腿四頭筋)
  • お尻(大殿筋)
  • 太もも裏(ハムストリングス)
  • 体幹(腹筋・背筋)

これらの筋肉は、立ち上がる・歩く・階段を上るといった動作に直結しています。

【科学的根拠】スクワットの形式で筋肉の使われ方が変わる

― 真鍋ら(2004)の研究より【文献4・5】

真鍋らの研究では、スクワットのやり方(スピードや重心の位置)が筋肉の活動にどんな影響を与えるかを報告しています。

真鍋ら(2004)の研究からわかった

スクワットのやり方と筋肉の使われ方の違い

スクワットのやり方主な動き方よく使われた筋肉特徴・ポイント
膝を前に出すスクワット(膝主導型)膝を曲げて体を沈める。お尻はあまり引かない太もも前(大腿直筋・外側広筋)膝に負担がかかりやすい。太もも前を集中的に鍛えたい人向け。
お尻を後ろに引くスクワット(股関節主導型)お尻を後ろに引きながらしゃがむ。上半身は自然に前傾お尻(大殿筋)、太もも裏(ハムストリングス)、背中(脊柱起立筋)膝への負担が少なく、安全性が高い。転倒予防にも有効。
バランス型スクワット(通常)膝もお尻もバランスよく動かす太もも・お尻・体幹の筋肉全身をまんべんなく使う。一般的なフォーム。
素早く行うスクワット(Quick)1回1~2秒で素早く上下に動くお尻(大殿筋)、背中(脊柱起立筋)パワー系の筋肉が強く働く。若い人やスポーツ向け。関節への負担は大きめ。
ゆっくり行うスクワット(Slow)5秒でしゃがみ、5秒で戻る太もも・お尻・体の奥の筋肉(速筋線維も)安全でしっかり効く。初心者やリハビリ中にもおすすめ。

膝を前に出すスクワット(膝の動きが中心)

動き方:

立った状態から、膝を前に出すようにしてしゃがみます。お尻はあまり後ろに引かず、まっすぐ沈み込むような動きです。

よく使う筋肉:

太ももの前側(とくに真ん中あたり)

特徴:

・太もも前に集中して効きます

・膝にかかる負担はやや大きくなります

おすすめの人:

・膝に痛みがない人

・太もも前をしっかり鍛えたい人

お尻を後ろに引くスクワット(お尻の動きが中心)

動き方:

しゃがむときに、お尻を後ろに引くように動きます。上半身は自然に前に傾きますが、背中は丸めないようにします。

よく使う筋肉:

お尻(大殿筋)、太ももの裏側(ハムストリングス)

特徴:

・膝を守りながら、歩く力や踏ん張る力を高められます

・転倒予防にも効果的です

おすすめの人:

・膝に不安がある人

・お尻や太もも裏を鍛えたい人

・歩行を安定させたい人

膝とお尻をバランスよく動かすスクワット

動き方:

膝も曲げてお尻も後ろに引く、バランス型のしゃがみ方です。膝がつま先より前に出すぎないように注意します。

よく使う筋肉:

太もも全体・お尻・体幹の筋肉など、全身をバランスよく使います。

特徴:

・全身の筋力をバランスよく鍛えたい方に向いています

おすすめの人:

・スクワットに慣れてきた方

・全体的な体力向上を目指す方

テンポよく速く動くスクワット(早くしゃがんで立つ)

動き方:

しゃがむ動作と立ち上がる動作を、1回1〜2秒の速さでリズミカルに繰り返します。

よく使う筋肉:

お尻・太ももなど、パワーを出す筋肉が強く働きます。

特徴:

・素早く力を出す筋肉を刺激できます

・関節への衝撃が大きくなるため、注意が必要です

おすすめの人:

・スポーツをしている人

・若くて筋力のある人

・瞬発力を高めたい人

ゆっくり動くスクワット(時間をかけて丁寧に)

動き方:

5秒かけてしゃがみ、5秒かけて立ち上がるように、ゆっくり動きます。

よく使う筋肉:

全身の筋肉をじっくり使い、特に体の奥の筋肉が働きます。

特徴:

・安全に筋力を高められます

・呼吸を止めずに、姿勢を意識して行うのがポイントです

おすすめの人:

・筋力に自信がない人

・膝や腰に不安がある人

・運動初心者や高齢者、リハビリ中の方

まとめ

スクワットはやり方次第で、膝への負担を減らしたり、特定の筋肉を集中的に鍛えたりできます。

あなたの体の状態や目的に合わせて、無理のないやり方を選びましょう。

それでも「スクワットは膝が怖い」というあなたへ

「正しいフォームでも膝が痛む」「変形性膝関節症と言われた」

そうした方に無理は禁物です。

でもご安心ください。スクワットと同様に筋肉を鍛えられる“代わりになる運動”があります。

【代替運動①】ハーフシッティング・エクササイズ(HSE)

― 座ってできる、安全な筋トレ

■ どんな運動?

椅子に浅く座り、片足を前に出して、上半身をゆっくり前に倒す運動です。

一見シンプルですが、大腿四頭筋(特に内側広筋)や半腱様筋などがしっかり活動します。

■ 科学的根拠

多田ら(2016)は、HSEと通常のスクワットを比較し、次のような結果を示しました【文献1】:

  • HSEでは、内側広筋とハムストリングスの筋活動が有意に高かった
  • 一方で、膝への剪断力や床反力はスクワットよりも低く、安全性が高い

→ 膝関節を動かさずに筋力を高めたい方にとって、非常に効果的かつ安全な方法です。

【代替運動②】ペダリング(自転車こぎ運動)

― 膝にやさしく下肢全体を鍛える

■ どんな運動?

エアロバイクや自転車を使用し、一定の負荷で足を回す運動です。

座位で安定し、膝への圧力が少ないため、リハビリにも用いられています。

■ 科学的根拠

岩下ら(2013)は、ペダリング・スクワット・トレッドミル歩行を比較した研究で、次のように報告しています【文献6】:

  • 高負荷のペダリング(120W)では、スクワットと同程度の太もも前面・裏側の筋活動が認められた
  • 歩行(6km/h)よりも、ハムストリングスや大腿四頭筋がよく働く
  • ペダリングは、関節にやさしい回転運動でありながら、効率的に筋力を刺激できる

※「120W」とは、エアロバイクの負荷設定の単位で、軽めの筋トレ〜中強度の運動に相当します。

→ 安全性と効果を兼ね備えた、有力な代替運動として位置付けられています。

【ポイント】スクワットを行うなら安全なフォームで

膝の不安があっても、以下の点に注意すれば、安全にスクワットを行うことが可能です。

■ 安全なスクワットの実施ポイント:

  • 膝をつま先より前に出さない
  • 深くしゃがみすぎない(膝90度までが目安)
  • 反動をつけず、ゆっくりと動作する
  • 痛みが出たら無理せず中止する

→ これらを守れば、膝を守りながら筋力をつけていくことが可能です。

まとめ:自分に合った運動を、正しく、続けよう

運動膝への負担筋力への効果特徴主な参考文献
スクワット中〜高最も効果的だがフォームに注意真鍋ら(2004)【4,5】
HSE中〜高座ってできる、安全性高多田ら(2016)【1】
ペダリング有酸素+筋力強化、安全性高岩下ら(2013)【6】

痛みを伴うときは無理をせず、必ず医療機関に受診をしてください。

【引用文献一覧】

  1. 多田雅之ら(2016).「Half sitting exerciseの運動力学的検証」. 理学療法学43巻2号.
  2. 市橋則明・吉田勉(1993).「大腿四頭筋の廃用性筋萎縮を防止するために必要な運動量について」. 体力科学, 42巻.
  3. 三秋ら(2007).「フォワードランジ運動とスクワット運動における大腿四頭筋活動の比較」. 金沢大学.
  4. 真鍋芳明ら(2004).「スクワットにおける運動速度変化および反動動作の有無が筋活動および関節トルクに与える影響」. 体力科学53巻.
  5. 真鍋芳明ら(2004).「動作形態の異なるスクワットが筋活動および関節トルクに与える影響」. 体力科学53巻.
  6. 岩下篤司ら(2013).「ペダリングとトレッドミル歩行およびスクワット動作における下肢筋の筋活動量」. 理学療法科学28巻2号
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